いじめのない学校と社会をつくっていくために 日本共産党八王子市議会議員団の提案-市条例案の問題点と解決の方向

いじめのない学校と社会をつくっていくために
日本共産党八王子市議会議員団の提案――市条例案の問題点と解決の方向
2017年3月23日
日本共産党八王子市議会議員団
山越 拓児
鈴木 勇次
青柳有希子
市川 克宏
石井 宏和

今日の子どものいじめ問題は、生命にかかわる深刻な事態も生じており、多くの人が心を痛めています。いじめをなくし、子どもたちが安心して人間らしく生きられ、成長する学校、社会をつくることは急務です。
2013年6月にいじめ防止対策推進法案が国会で議論になった際、法案が「子どもにいじめを行ってはならない」と行動を命令していることや、懲戒や出席停止を強調する厳罰主義をとっていること、いじめを苦にした自殺の起きた大津市の第三者機関からも限界があると指摘された道徳教育中心主義の立場など問題点が指摘され、いじめ問題の取組を進める上で障害になりかねないと懸念が表明されました。
日本共産党は、国会の質疑で、「いじめを厳罰によって抑え込み、子どもの心をさらにゆがめ、子どもと教員の信頼関係を壊すなどいじめ対策に効果がなく、悪影響を及ぼす」、「上からの道徳教育を押しつけ、保護者に『規範意識を養うための指導』を求め、自主的な子育て、家庭教育を否定しかねない」、「被害者・保護者の『知る権利』が明確にされていない」など問題点を指摘しました。そして、子どもがいじめられずに安心して生きる権利を明確にし、厳罰ではなく、いじめをした子ども自身が人間的に立ち直れるように支えることこそ求められていると強調しました。採決に当たっては、法案には原則的な問題で、見過ごせない点が含まれていると反対し、関係者の意見も聞き法案を作り直すことを求めました。
市は施行されたいじめ防止対策推進法(以下、「法」という。)に基づき、2017年第1回定例市議会に「いじめを許さないまち八王子条例」案(以下、「条例案」という。)を提案しました。私たちは、いじめが子どもにとって重大な人権侵害であり、成長に重大な影響を与えるものであることから、第一に、目の前のいじめから子どもたちのかけがえのない命、心身を守りぬくこと、第二に、いじめが発生し深刻化する要因を根本的に取り除く取組を前進させることが重要だと考えます。条例案の審議をふまえ、八王子市のいじめ防止等の取組をよりよく前進させ、八王子の子どもたちをいじめの苦しみから解放することを願う立場から、以下、日本共産党八王子市議会議員団の提案を述べるものです。
【1】いじめは人権侵害・暴力であり、市は子どもの生命と人権を最優先でまもること、いじめられずに安全に生きる権利を子どもが持っていることを明確にする
いじめは、人間関係を利用して相手に恐怖と恥辱を与え、心と行動を支配しようとするもので、時には子どもを死に追いやるような事件にも発展します。同時に、いじめは、いじめる子どもや、さらにはこれをはやしたてる観衆としての子ども、見て見ぬふりをする傍観者としての子どもをも含めて、その健全な成長を阻害し、子どもの人権を侵害するものです。
今日、いじめの防止と解決は焦眉の課題であり、いじめを防止するための条例や方針・対策を具体化する際に、何よりも重視すべきは、子どもの生命と人権を守る立場から、子どもがいじめられずに安全に生きる権利を持っていることを明記し、それを保障するための条例や基本方針であることを明確にすることです。そのためにも日本国憲法と、子どもの人権を保障する国際的基準である「子どもの権利条約」に基づく行政の立場を明らかにすることが大切です。
この点で、条例案は、「いじめは、子どもの健やかな心身の成長や人格の形成に重大な影響を与えるのみならず、その生命又は身体に重大な危険を生じさせるおそれがある人権侵害」(第3条)と規定し、第1条の「目的」では、「いじめが、いじめを受けた子どもの人格を著しく侵害する」としていることは重要です。しかし、いじめが行われたときにいじめを受けた子ばかりでなく、周りの子どもたちにも人格形成において深刻な被害をもたらします。第4条第3項で「いじめが子どもの心身に及ぼす影響」といった規定をしており、いじめを受けた子だけではない子どもたちへの影響も考慮した表現にも読めますが、条例案全体としてみれば「いじめられた子を守る」という視点のみになっている点は不十分であり、いじめがすべての子どもにとって解決を迫られている問題だという立場を示すことが重要だと考えるものです。
なお、条例案では、市長の責務として「救済制度」も周知が必要な事項とされています。しかし具体的な救済制度は明らかにされておらず、条例案に規定するのであれば、いじめを受けたことで余儀なくされた経済的負担の軽減、家族を含む精神上の苦痛への軽減、その他救済のため必要な施策を講ずることも市長の責務とすることを提案します。

【2】学校の取組は「いじめの解決はみんなの力で」を原則に、全教職員の創意と努力を結集する
学校の教職員がいじめの存在を発見したときは、子どもの命を守ることを最優先にして、全教職員が情報を共有し、学校全体で知恵と創意を結集して対処することが重要です。また、学校や行政がいじめを放置したり隠蔽したりすることは、子どもの人権と生命に関わる重大な安全配慮義務違反に当たることから、教職員が子どもの気になる変化やいじめに気づいたとき、絶対に後回しにせず、学校全体で機敏に対応しなければなりません。そのために、学校と教師に対する上からの一方的な管理統制主義、とにかく学校長の経営方針に従うことが強調され、ひどい場合にはパワハラやセクハラの被害まで生じるような状況を改め、教師や学校の創造性を励ましていくことが重要です。教職員会議を校長の学校経営方針や教育委員会の方針を伝達するだけの場とするのではなく、自由に意見が表明できる民主的なものに改革していくこと、教員同士が率直な指摘や相互批判を行えるようにすることが大切です。

【3】子どもたちの自主性を育て、いじめを止める人間関係をつくる
いじめをなくすには、子どもたち自身の「やめようよ」という声が一番の力になります。子どもたちの自主性や主体性を尊重するさまざまな教育活動を通して、子どもたちが達成感を味わい信頼関係を確かなものにすることができたという報告がされています。子どもたちの人間関係を豊かにする教育実践や子どもたちの自主的取組を応援し、支えることが大切です。市教育委員会も審議の中でその重要性を認める答弁をしています。
条例案は「子どもの役割」として「互いに思いやりを持ち、自らいじめのない学校生活その他の日常生活を実現できるように努めるものとする」と規定していますが、小学生を含む様々な発達段階にある子どもたちすべてに一律に役割を求めることは相応しくありません、役割を条例の中で求めるのではなく、教育実践の中で培われるものであり、それを保障するのは学校、教職員、大人の責任であり、子どもたちに条例に規定して求めるのは不適切です。

【4】いじめを受けた子どもやその保護者の真相を知る権利を保障するとともに保護者に過度な責任を負わせない
いじめが重大な事件・事故となった場合、事実調査が行われます。被害者やその家族は本来その内容を知る権利があります。しかし多くの場合、事実調査は不十分で、その説明は被害者側から見てまったく納得できないものであることが度々でした。したがって、いじめの隠蔽をなくすことは、法の制定で強く期待された点でした。しかし法は、「情報を適切に提供する」として、どこまで提供するかは学校等が判断することを容認しており、いじめを受けた子どもやその保護者の願いに応えているとはいえません。市は、この点を問われて「法に基づいて適切な情報提供が行われるものと考える」と答弁しましたが、被害者とその家族の「知る権利」を保障する立場を明言しませんでした。
一方、条例案は、第7条「保護者の責務」の規定を設け、「第一義的責任」「規範意識を養うための指導その他の必要な指導」を保護者に求め、「子どもをいじめから保護する」こと、「市及び学校が講ずる措置への協力」を求めています。表現としては努力義務であっても、これらの規定は、いじめの発生原因や、被害児童・生徒の保護責任を親に向けさせるもので、いじめ問題の解決にとってかえって弊害を生むおそれがあります。そして、保護者の協力を困難にし、いじめ問題の処理を難しくします。保護者には状況を正しく伝え、子どもや親の相談にも対応できるようにし学校や教師との協力関係を築ける関係をつくっていけるような取組が大切であり、それにふさわしい規定とすべきです。

【5】子どもたちの健やかな成長を保障し、いじめのない学校づくりのため、市として教育環境整備・拡充に力を尽くす
マスコミの調査でも7割の教員がいじめ対応の時間が足りないと答えているように、学校現場では過労死ラインまで働いても、肝心の子どもと遊んだり、授業準備をする時間が十分に確保できないという事態が広がっています。いじめ対策を最優先に取り組むためにもこの状態は一刻も早く改善されなければなりません。
教職員を増員するとともに、多すぎる報告や事務処理業務を、教職員参加のもとで整理し、教職員一人ひとりが子どもたちに向き合うことができ、多様な価値観や課題をもつ子どもたちがぶつかりあう中で、その都度丁寧な対応を通じ問題をのりこえ、子どもたちが成長できるような学校づくりを進めることが必要です。
一人ひとりの子どもに教員の目が行きとどくよう、35人学級の全学年での早期実施も急がれます。条例案が第14条で人材の確保及び資質の向上を定めていることは重要です。この間市は、スクールカウンセラーの確保、増員などに取り組んできましたが、いっそうの体制充実が求められています。そのためにも、条例には市長が必要な財政上の措置を取ることを明記すべきだと考えます。また、養護教諭の増配置など、国及び東京都に必要な支援を求めることも重要です。

【6】いじめの根本にある、子どもたちの過度なストレスと苦しみの解決を
競争と管理の教育の中で、子どもたちは大きなストレスを抱えています。のびのびと育つべき多くの子どもたちが、いらだちをため、強い孤独感に包まれています。東京都教職員研修センターの研究では、いじめた子は自尊感情が低いことが明らかになっていますいじめ問題の根本的解決を図るためには、なぜここまでいじめが深刻になったのかを考え、社会や教育の在り方の問題ととらえて、各分野でその改革に着手することが求められています。
国連子どもの権利委員会から度重なる勧告を受けているような、過度な競争主義から子どもたちを解放することが重要です。そして、すべての子どもたちがいきいきと学んでそれぞれの能力を豊かに伸ばし、自己肯定感・自己達成感を育む教育をめざすべきです。

私たち大人が子どもの声に耳を傾け、子どもが学校でも地域や家庭でも安心してのびのびと過ごす中で成長できるような社会を築き上げていくことが、いじめのない社会をめざす私たち大人の責務です。条例制定の動きが、いじめ問題を社会総がかりで取り組むべき問題としたことから始まっていることは重要ですが、今回の条例案は、これまで述べてきたような見過ごせない原則的な問題点があります。
条例案上程に先立つパブリック・コメントが行われましたが、あくまで骨子であり、具体的な条例の形をとらず、条例案送付後に比較してみると骨子の段階ではなかった表現が加えられています。
市は、条例案審議で議会から出された意見を踏まえ、条例をもとにいじめ防止基本方針の改定作業を進め、パブリック・コメントを実施するとしています。一方、子ども向けの啓発リーフレットはそれに先立って作成する考えを示しています。
しかし、委員会審議の際、総合経営部長がこの条例は「強い姿勢を示すもの」「市民総がかりで道徳心を醸成する」と発言したことに表れているように、今日のいじめ問題の背景や特徴についての認識が条例案に反映しておらず、保護者や子どもに責任を負わせるような表現をそのままにする訳にはいきません。したがって、市議会での議論もふまえ、論点を市民に明らかにし、さらに多くの関係者の英知を結集して条例案を練り上げるべきです。具体的な学校現場における取組は現行のいじめ防止基本方針に基づいて行われており、新しい条例の施行を急ぐ必要はありません。
私たちは、学校が子どもたちの成長を支え、子どもたちの人間関係を豊かにし、子どもたちが夢と希望をもって通える場所となるよういじめの根絶のための様々な取組をしている関係者、市民のみなさんと共に引き続き努力していく決意です。

以上