2025年第3回定例会本会議|高裁判決に基づき全ての生活保護利用者に対する速やかな被害回復措置の実現を求める意見書|2025年9月22日 わたばやしゆか
それでは、ただ今上程されました議員提出議案第17号、最高裁判決に基づき全ての生活保護利用者に対する速やかな被害回復措置の実現を求める意見書につきまして、私から提案説明を行います。
2013年から2015年にかけて、生活保護基準のうち生活費の部分に当たる生活扶助基準が平均6.5%、最大10%引き下げられました。引き下げの対象世帯は全体の96%、削減額は約670億円にのぼり、過去最大の引下げとなりました。食費や光熱費など生活扶助部分の大幅引下げは、まさに生活に直結する深刻な影響を与えました。
この生存権を脅かす不当な引下げに対して、全国29都道府県で1,027名の原告が取消等を求めて提訴してきました。これまで高裁で判決のあった12件のうち、引き下げを取り消したのが7件、原告敗訴が5件と判断が分かれていました。
こうした状況の中で、本年6月27日、最高裁判所は、大阪・愛知の訴訟に対する統一判断として、厚生労働大臣の判断に裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があり違法であるとして、本件引下げを理由とする保護変更決定処分を取り消す判決を言い渡しました。
最高裁の統一判断は、厚生労働省が保護基準引き下げで物価下落率を使った「デフレ調整」には合理性がないと指摘しており、この指標は社会保障審議会の生活保護基準部会などによる検討を経ておらず、専門的知見の裏付けを認められないとしました。そのうえで厚生労働相の判断の過程・手続きには過誤、欠落があり、生活保護法違反だと厳しい司法判断を下しました。
厚労省がここまで大幅な保護基準引き下げを強行した背景には、2012年の総選挙で政権に復帰した第2次安倍政権が「生活保護10%削減」の公約を掲げていたことがあります。2024年2月に行われた津地裁判決では「政治への忖度(そんたく)」があったと指摘されており、政治的思惑に基づいた引下げが、結果として違法であると断じられました。
国立社会保障・人口問題研究所のホームページに公開されている「生活保護基準額改訂の推移」によれば、1級地標準世帯で夫婦子1人の世帯の場合、2004年から2012年まで生活扶助額は16万2170円でしたが、2015年になると15万8330円まで減額されており、その後も大きな回復はありません。
法治国家として、国は、司法が下した判断に従い速やかに違法状態を是正しなければなりません。しかしながら、最高裁判決から既に2カ月が経過しているにもかかわらず、現時点までに国からは、10年以上の長期にわたって生活保護利用者に憲法で保障された生活水準を保障できなかったことに関する謝罪や是正措置もありません。
それどころか、最高裁判決から4日経った7月1日、厚生労働大臣は、閣議後の記者会見で、「判決の趣旨及び内容を踏まえた対応の在り方について、早期に、専門家によりご審議いただく場を設けるべく検討をすすめて」いくとの方針を表明しました。裁判の原告・弁護団は、協議の場での謝罪もなく、頭越しに専門家の審議に委ねる方針を発表したことは、交渉の前提となる信頼関係を蔑ろにし、生活保護利用者を対等な交渉相手とは認めないと言わんばかりの差別的な姿勢であると強く批判をしています。勝訴した原告側が反対したにもかかわらず、厚生労働省は、「最高裁判決への対応に関する専門委員会」を強行設置しました。厚労省が選んだ専門委員が最高裁判決の内容を精査するというもので、12年間にわたる全国31の訴訟を無いものとし、国民の権利と自由を保障する三権分立を揺るがすことに他なりません。厚生労働省は、今後の対応を、謝罪も含めて、この専門委員会の結論をふまえ検討したいとしており、不誠実な姿勢を続けています。
憲法25条に基づき、国民の生存権を守る“最後の砦(とりで)”が生活保護制度です。生活保護利用者は基準が大幅に引き下げられたことで、生活扶助費が平均6・5%減額され、その影響が長期間続いた上に、現在の物価高騰、猛暑等が重なり、多くの利用者の生活は限界に追い込まれています。すでに原告の2割を超える232人が亡くなっています。最高裁判決後も、神奈川の原告の方が猛暑の中でエアコンが設置できないために亡くなるなど深刻な事態も発生しています。こうしたことからも生存権を保障する生活保護制度を政治的思惑でゆがめた責任は極めて重いものと考えます。
「国民生活の保障及び向上」等を図ることを任務とする厚生労働省がすべきことは、最高裁判決を真摯に受け止め、勝利した原告・弁護団と協議し、最高裁判決によって違法と断じられた措置の是正をただちに行うべきです。
国民の権利救済よりも行政の都合を優先するこれまでの政府の対応は、司法判断を矮小化し三権分立を揺るがす重大問題です。こうしたことからも八王子市議会として、市民の生存権を守る立場から政府に対して最高裁判決を真摯に受け止め、謝罪とともに早期に是正措置を求めるべきものと考えます。
以上、地方自治法第99条の規定により意見書を提出するものです。議員各位の御賛同を賜りますようお願い申し上げ、提案説明といたします。